白鯨


静寂の海に浮かぶ駅
真夜中に忍び込んだ
昼間の雨で水かさが増して
水中の線路はゆがむ

月明かりさえも届かないホーム
自販機だけが晧晧と光る
何故ここに居るの 何を待っているの
波の声を聴きながら

真っ白な鯨がゆっくりと滑り込んでくる

白い鯨よ 何処へ
僕を乗せずに 何処へ
乗車券は期限切れだけど
その丸い背に乗せてくれ

「今の鯨は回送です。次を御利用下さい。」と
厳かなアナウンスが響く
波の声を避けながら

大きな目をした鯨は僕を横目に通り過ぎていく

白い鯨よ 何処へ
僕を乗せずに 何処へ
乗車券は期限切れだけど
その丸い背に乗せてくれ


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